きょう憲法記念日 戦前の日独から考える 学術会議問題 撤回求める署名運動呼び掛け人・山根徹也 横浜市立大教授:東京新聞 TOKYO Web

「学問の自由を封じれば政治権力はもっと横暴になる」と述べる山根徹也・横浜市立大教授=横浜市金沢区で

「学問の自由を封じれば政治権力はもっと横暴になる」と述べる山根徹也・横浜市立大教授=横浜市金沢区で

 菅義偉首相による日本学術会議会員候補六人の任命拒否を「違憲」として、撤回を求める県民署名運動が、首相の選挙地盤である神奈川で始まっている。呼び掛け人の一人、山根徹也・横浜市立大教授(西洋史)は「歴史をみれば、学者への攻撃は戦争に向かう序章。この問題を座視すれば、国民の言論や内心の自由を侵す方向へと突き進む」と警告する。憲法記念日に当たり、歴史の教訓を考える。 (安藤恭子)

 学術会議をめぐる菅首相の任命拒否が発覚したのは昨年十月。首相は理由の説明を拒んでいるが、六人は、前政権で成立した安保法制や特定秘密保護法、「共謀罪」の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法を批判してきた学者だった。山根さんは「いずれも人権を脅かす危険性が、指摘された法律。それに反対する学者の任命拒否は、政権による『学問の自由』への攻撃だと思った」と振り返る。

 戦前も、国家権力の意に沿わない学者らへの弾圧から言論統制が加速したという。一九三三年、京都帝国大(現京都大)の法学部教授の講演が問題視され、大学を追われる「滝川事件」が発生。三五年には東京帝国大(現東京大)の美濃部達吉名誉教授が説いた「天皇機関説」が、国体への「反逆」と批判され、著作が発禁とされた。

「天皇機関説事件」を伝える国民新聞と都新聞(両紙とも東京新聞の前身)の記事

「天皇機関説事件」を伝える国民新聞と都新聞(両紙とも東京新聞の前身)の記事

 ナチス政権下のドイツでは三三年、人身の自由など基本的人権を停止する大統領緊急令が発出。学生らがユダヤ系や反体制的な作家の書物を焼き払う「焚書(ふんしょ)」が起き、「反ナチス」とみなされた市民は、危険な前線や強制収容所に送られた。政権末期の四三年には、反戦ビラをまいた非暴力の大学生らが死刑とされた。

 「批判を封じるため、考えが合わない人を学術会議で任命しないとなれば、戦前の日独と同じく政治権力のさらなる横暴を招きかねない」と山根さん。コロナ禍の日本では、合理的な説明なく五輪開催政策が推し進められ、学生ボランティアや医療従事者の動員が図られている。山根さんはこの現状にも、命を脅かす同類の「横暴さ」を見いだす。

 そもそも憲法が保障する学問の自由は「学者のための権利ではなく、全体の福祉のためにある」と言う。地球温暖化や感染症への対応、安全保障など、日本と世界を取り巻く問題について正確な知見が封じられれば、思考は制限され、適切な議論はできなくなる。

 湾岸戦争以降、憲法のたがは徐々に緩められ、集団的自衛権の行使を容認する安保法制も成立した。「この三十年、『戦争できる国』への準備が続いてきた」と山根さんの目には映る。今回のような政治介入が通れば、軍事研究への協力に否定的な姿勢を貫いてきた学術会議も、変質させられかねない。「国家権力が憲法を壊し、戦争を起こすことは案外たやすい」と危ぶんだ。

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 県民署名運動は県ゆかりの研究者十四人が呼び掛け人。賛同者は県民に限らず、誰でも署名できる。六月十日に第一次集約をし、内閣府に提出する予定。詳しくは、運動のホームページ、または事務局メール([email protected])へ。